二重生活 初日
二重生活の初日。
夕方に実家に戻ると散歩から両親が帰ってきたところだった。
散歩と言えば聞こえはいいが、
実際は自宅にいるにもかかわらず「帰る」と言い出した
母の徘徊を防ぐために父が付き添って歩き回っていたものだ。
こんなとき以前は説得して分からせようとしていたが、
今は外出に付き合ってある程度歩いて落ち着いたところで
帰宅を促す方法でうまくやれているようだ。
先日、偶然道を聞かれた際にお話をさせていただいた
認知症の専門家の方も一番いいのはこの方法だとおっしゃっていた。
帰宅したばかりの母からは以前にも増して「衰え」を感じた。
視線も虚ろ、声も小さく動作も緩慢、顔の表情も無くなっているようだった。
しかし夕飯をつくるから手伝うように言うと、
ゆっくりとした動作ながらも野菜を切ったりし、
少しだけ笑顔も見られた。
長いようで短い介護二重生活が静かにはじまった。